今日は前回紹介したアーティストKENYについてお話したいと思います。
作品を聴けば分かる通り、彼は豊潤なイマジネーションと創造力、そして世の中のことをよく知っている素晴らしいアーティストであり、ギタリストです。
その実力から、20代前半の頃にはすでにプロへの道が開かれていました。
しかし彼は、当時まだ一般的ではなかった、CDRの出現を目の当たりにします。
(現在ではもはや過去のメディアとなったCDRですが、2000年前後に録音できるメディアはMD(ミニディスク)が主流で、CDは手軽に作れるものではありませんでした。)
それをみて、彼は時代の変化を直感します。
「音楽業界は変わる」
彼は音楽の世界からビジネスの世界へ転身し、ビジネススキルを学びます。
そちらの世界でも、豊かな才能を活かして成功を収めました。
そして9年の歳月を経て、彼はケニーカスタムを手に、音楽業界へ戻ってきます。
彼の直感どおり、音楽業界は大きく姿を変えました。
CDは売れなくなり、インターネットの発展により、メジャーとインディーズという区別、そしてプロとアマという区分の意味が失われてきました。
KENYは、その時代に敢えて、音楽業界に戻ってきたのです。
それはなぜか?
音楽こそが、彼の真にやりたいことだったからです。
音楽活動やバンド活動をすると、社会人としてまともな仕事に就けない。
もうそういう時代ではないのです。
音楽に限らずですが、クリエイティブな創作をしたければ、自由に発信できる時代です。
大事なのは素晴らしい作品を生み出すことができるかどうかであり、それで生計を立てているかどうかは大した問題ではありません。
むしろそういう体裁に拘って貧しい生活をしていたら、それこそナンセンスといえるでしょう。
これからの時代は、所属している組織や会社に依存せず、各個人が人生のポートフォリオを組むことが求められています。
時間が欲しいのか、金銭的余裕が欲しいのか。
自分の人生において大切なことは、経済的な余裕なのか、それとも家族との時間なのか。
どちらがいい、という問題ではなく、自分で選ぶことが大事なのです。
会社に人生を捧げることが人生の目的であり、それを喜びとする人もいるでしょう。
それはそれで、幸せな人生です。
自分で決めているからです。
この10年で、楽曲を作り、録音し、それを誰もが聴ける状態にするためのハードルは大きく下がりました。
費用もじゅうぶん手の届く範囲になりました。
意欲さえあれば自分のやりたいことが自由にできる時代です。
「誰でもできる」
そういう時代だからこそ、真のクリエイティビティが試されます。
KENYのアーティストとしての在り方は、新しい時代を象徴していると言えるでしょう。
地位や名誉やステータス、そういった本質とは関係のないものに人は振り回されがちです。
マーケットが拡大しすぎて主客顛倒してしまった音楽業界は、これから自然淘汰されて、本来あるべき姿に戻っていくでしょう。
宣伝広告の力が低下し、虚像が消え去って本物だけが残るでしょう。
多様なコンテンツが氾濫している時代です。
音楽をじっくり味わうことは以前よりもハードルの高い趣味となってきています。
しかし、時代がどう変化しようと、音楽は素晴らしい。
音楽は、人の心を結ぶ力がある。
それは変わりようのない真実です。
家族や仲間が集った時に、自然にギターを弾きながら歌う。
それは自然で、とても楽しいことです。
そういう楽しみをより多くの人に持って欲しい。
技術の有無を競うために音楽はあるのではありません。
純粋に喜びを共有し、心を通わせるためにあるのです。
TAGでは、そういう心を伝えていきたいと願っています。
それではごきげんよう。
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